物語る亀の日常

井中カエルが日常のことについて適当に喋るブログ

下請け問題:アニメ業界の構造と権利〜映像クリエイターが儲からない構造的な問題点②〜

 

この記事は、以下の記事の続きになります

 

monogatarukame-sub.hatenablog.jp

 

 

 

 

構造的に稼げない下請けのアニメ制作会社

 

1度前回の記事からの振り返りで必要なのは、ビジネスオーナーと投資家が儲かるってやつだよね?

 

自分が「映像系のクリエイターが稼ぐには構造的に難しい」といった原因がここにある

 

主「つまり、アニメの制作会社や映像系のクリエイターというのは、あくまでも制作会社という下請け企業でしかないんだよ。

 それはヒットしてもしなくても制作費としてお金は貰えるということ。

 逆に言えば、どれだけヒットしても、追加のお金はもらえない……貰いづらいということ」

 

中抜きは本当に悪いのか? 中抜きの問題点

 

それって中抜きで問題なんじゃないの?

 

そうといえばそうだけれど、違うといえば違う

 

カエル「え〜? 日本をダメにしている原因じゃなくて?」

 

主「そういう一面は確かにあるけれど、それをいったら『じゃあ、あなたが元請けになったらいいんじゃないですか?』ってことでもある。

 中抜きの問題点があるとしたら競争になっていないこと。

 つまり……例えば自治体とかの大きな組織が『今まで〇〇会社にお世話になっていたから、今後もずっとお願い』みたいな形で、もっといい条件のところに仕事を発注しないことで、ずっと条件が変わらないままになる。

 すると、本来は元請よりも、いい条件で仕事をできるし、中抜きもされないから利益も伸びる下請け企業が下請けのままになってしまう。

 二次下請けや三次下請けそのものは問題ないし、もっとお金が欲しかったら、より上位の請負会社になればいい……まあ、なれない事情があるのも分かりますけれどね」

 

アニメ業界の元請け企業と下請け企業

 

アニメ業界でいったら『元請け会社』になればいいんだよ

 

カエル「アニメ業界はアニメ制作を主導する立場にある『元請け会社』と、その指示で働く下請けのアニメ会社(『グロス』ともいう)があります。

 なので作品によりますが、例えばサンライズ東映アニメーションが制作スタジオだとしても、実際には下請けの会社が映像を作っている場合があります」

 

主「TVシリーズは13話全部担当するケースばかりではなくて、下請け企業が映像を作っている場合も多い。

 特に工程によっても別会社を経由することは多くて、仕上げ工程の専門会社とかもあるわけだね」

 

京アニなんかは、元々仕上げ工程の会社だったけれど、そこから元請け会社になった例だね

 

カエル「……つまり、もっと大きくなればいいと」

 

主「もちろん、簡単ではないのも理解する。

 だが構造的に……というか経済の仕組み的に、大きく稼ぎたいならば下請けを脱するのも1つの手段だ。

 ただし現実としてはアニメの場合は元請け企業よりも、下請けのグロス企業の方が儲かりやすいというのも聞く。多分制作コスト、特に管理費用が高すぎるんだろうね。

 この辺りは一般論として捉えて欲しいかな」

 

作品が売れてもボーナスなどの追加支払いは少ない立場

 

じゃあさ、会社だって利益が増えたらボーナスとかあるじゃん、それと同じでヒットしたらお金を追加で支払うべきだよ!

 

だから、製作会社と制作会社は基本的に別会社なんだって

 

主「製作会社はリスクを負ってお金を投資して作るから、赤字が出ても制作費は支払う。逆に言えば、それで爆益でも追加で払う必要性は薄い。

 これが製作会社の社員がアニメを作っているならば、それをボーナスとして還元することは可能だよ。だけれど、一般的には別会社にお金を渡す必要性はないわけだ。それが可能ならば、逆に外れたら制作費を減額してもいいのか? って話になる」

 

ここは作品が外れた時の視点も重要だ

 

主「当たった例が話題になるけれど、世の中にはその何倍もの外れた例があって、そこは誰も語らない。

 じゃあ、その赤字は誰が負うのか?

 責任を負うのは、前回の記事でも語ったようにビジネスオーナー(製作会社)と、その株主であって、従業員でも外部の個人事業主でもないんだよ。

 だからこそ、大きな金額を得ることができるし、エンタメなんて当たるか外れるかは予測不可能なものなんだよ」

 

製作委員会の是非

 

え、よく聞くじゃあ製作委員会ってなんなの?

 

エンタメ製作を行うためのリスクヘッジのための委員会だよ

 

カエル「いろいろな会社が集まっているんだよね?」

 

主「そうだけれど……基本的にエンタメって当たり外れが大きすぎるんだよ。

 だから基本的に博打で、ハリウッドでは映画プロデューサーは山師と同じ、みたいな言われ方だってする。

 そのリスクを減らすために、色々な会社がお金を出し合って、リスクを少なくする。その代わり、利益も少なくなる

 

製作委員会の問題点って何?

 

ビジネス的には、権利が複雑化することがメインかな

 

主「その分野……エンタメならば音楽販売とか、配信会社とか、色々な専門家の集まりなわけだしね。

 クリエイトの面だと口を出す企業が多くなって意見がまとめづらいのと、あと権利が複雑化して何か新しいことをしようとすると、全ての企業のお伺いを立てなければいけないのが難しいとかかな。

 詳しくは以下の記事を読んでください」

 

https://www.kittenlawoffice.com/post2/production%E2%80%90committee%E2%80%90method/

 

まとめると、制作会社にはどれだけ当たってもお金が来ないの!?

 

少なくとも、理屈上は

 

カエル「そんなのおかしいよ!」

 

主「もちろん、色々な関係があるだろうから一概には言えないけれどね」

 

 

権利と利益

 

下請け会社や個人事業主が注目されるという特殊な業界

 

制作会社が儲からない構図はわかったけれど、じゃあクリエイター個人は?

 

彼らは1番弱い立場なんだよ

 

主「アニメ業界で……というか、映像クリエイター系で特殊ところというのは、下請け会社の社員や、外部の個人事業主が、最も知名度と技術があるクリエイターということなんだよね。

 例えば車を例にすると、車で話題に挙がるのはセルシオとかの車種だろう。

 車種=作品だとすれば、その販売を行う企業=製作会社ということになる。

 一般的には、車が好きな人は、トヨタなどのその車を売っている会社=製作会社の話をするよね。

 だけれどアニメの場合は、製作会社の名前なんてほとんど人が意識しない

 

アニプレックスの作品だ! とかは、結構コアなファンの見方だよね

 

もちろん、1番注目を集めるのは作品という点では変わらない

 

主「だけれど、その次に注目を集めるのがクリエイターや制作スタジオだけれど……構図で言えば、彼らは下請けの社員、あるいは外部の個人事業主ということになる。

 つまり車に例えると……変な例に聞こえるかもしれないが三次下請けにいる『タイヤメーカーの田中さんの仕上げ方、痺れる!』とか『エンジンのネジの精度が素晴らしい! 鈴木さんの仕事だ!』などのような状況になっているわけだ」

 

車を販売しているトヨタとかの下請けさんが、実際には車のパーツを作っている、という構図だね

 

そしてそのパーツを作るのがクリエイターということになる

 

主「結局、注目を集めやすい原画だって、それだけでは意味がなくて、脚本や絵コンテがあって、作画監督などの修正があって、動画が作られて動画検査にチェックされて、美術・仕上げ・撮影処理・音声などがミキシングされる。もちろん、監督が全てをコントロールするわけだ。

 そしてTVや映画館などに流通することで初めて意味がある。

 凄腕の原画マンだとしても、その人の原画1枚だけでは、なんの意味もない。

 花形のように言われる声優や、実写作品の俳優だって、役者だけならば何もできないよね。」

 

いろいろなクリエイターの方が集合しての、作品という当たり前なことだよね

 

だけれど、何度も言うようにここって1番儲からない

 

主「作品という製品を販売するために、色々な人がクリエイトしているけれど、そのクリエイターはあくまでも下請けに過ぎないんだよ。

 一般的に考えてみ、下請け企業の非正規雇用なんて、安定性もないし、企業の収益性が悪ければお金ももらえずメリットってなに?

 一番名声を稼ぐはずのクリエイターだけれど、一番経済的なメリットがない立場にいるんだ。

 ちなみにいうとライターも関わる人数は少ないですが、ほぼ同じ構図なので、自分も最も立場が弱いところにいるってことになります」

 

個人の漫画家や小説家とアニメクリエイターの違い

 

でもさ、色々と作っているんだから権利を持てば……

 

それが1番難しいんだよ

 

主「もちろん、権利を持つのが1番大きいし、重要。

 同じ個人事業主表現者という意味では、小説家とか漫画家というのは著作権を持つから儲かるんだよ。特に漫画家は売り上げの桁が大きくて鳥山明とか、尾田栄一郎とか、あのレベルになるとめちゃくちゃお金を稼げる。

 『遊戯王高橋和希は、漫画収入以外でもカードゲームがめちゃくちゃヒットしているから、お金がめっちゃ儲かったと言われている。これも作品を著作し、ゲームを発明した権利者だからだね。

 漫画家は個人だからその収入を分配しなくてもいいというメリットだってある。

 だけれど、アニメや映画の集団クリエイトは権利関係が複雑になりやすいし、クリエイターの権利はないものにされやすいんだ

 

『はじめの一歩』とアニメーターの騒動

 

どうして集団制作のクリエイターは権利がもらいにくいの?

 

じゃあ、クリエイター界隈でも賛否が分かれたエピソードとして『はじめの一歩』の騒動を挙げよう

 

カエル「ちょっと前に『はじめの一歩』の森川ジョージが、アニメーターと議論になっていました。

 経緯としては森川が海外のコミコンに参加した人の写真を見ていたら、色紙に明らかに『はじめの一歩』のキャラクターが描かれていました。

 ただし、森川ジョージはその色紙を描いていないのが明白でした。

 調べたらアニメ版の『はじめの一歩』に関わったらしきアニメーターが描いていたことが発覚し、それに対して遺憾のポストを投稿したところ、別の複数のアニメーターに叩かれた、という話です」

 

法律や権利に関しては森川が正しい

 

主「アニメーターのポストを見たけれど『同人ならOKなのか、コミケならOKなのか、アニメーターだけダメなのか』と憤慨していたけれど、基本的に二次創作は全部ブラック寄りのグレー。

 権利者が黙認しているだけで、許可はしていない。

 しかもコミケは実際は置いといて非営利目的という触れ込みだけれど、海外のコミコンで書いたってことはお金が発生している可能性がある。そうなったら営利行為となる。

 権利を持たない人が他者のキャラクターを描いて販売する……これは明確にアウト。

 だから著作権者の森川がダメと言ったら、全部ダメ」

 

権利を持てない映像制作者

 

アニメ作品に関わった人でもダメなの……?

 

権利がないならダメです

 

カエル「えー? 厳しくない?」

 

主「心情としては理解できなくもない部分があるが、実際は絶対にダメです。

 なぜクリエイター界隈で原作者が神様と言われるのか、それは著作権という絶対的な権利を持つから。

 キャラクターも含めたIPビジネスは、権利者が絶対的な権限を持っているんだよ」

 

ただ、実際問題としては親告罪だから刑事告訴されるかというと、それはまた別の話で、この件も遺憾の表面で終わったと認識している

 

主「これがアニメーターが儲けられない、最大の理由。

 権利がないから、ビジネスができないし、二次使用のお金も入ってこない。

 もちろん、そこは契約によるけれどね。

 それにアニメの場合は、さっきも言ったように一シーンでも著作者が複数人いて、判断が難しい。脚本、絵コンテ、キャラクターデザインはもちろん、原画を作画監督が修正し、それを元に描かれた動画を動画検査が修正し、背景などの美術、色彩などの仕上げ、撮影処理が絡む。そこに音声が絡むから、複雑。

 小説や漫画はアシスタントがいても、基本は作者は1人、ないしは少人数だからわかりやすいんだけれどね」

 

それって契約ってどうなっているの?

 

業界人じゃないから知らないけれど、多分誰も何も管理してないんじゃない?

 

カエル「え、著作権譲渡とかもなく?

 でも契約文化もないって話だから、そりゃそうなのかな?」

 

主「脚本家とかは交渉の歴史があるけれど、アニメーターは法廷に持ち込んだら……どうだろうか。監督、脚本、演出、キャラクターデザインは著作権が認められるとは思うけれど、作画監督でも微妙じゃないかなぁ……?

 詳しくは下のリンクを読んでください」

 

capitalist-navi.com

 

権利を得ることが大事

 

ここまではアニメの話を中心にしたけれど、アニメ以外の映像クリエイトの現場も同じような構図なのかな?

 

だったら、儲からないのは当たり前だよね

 

カエル「権利もない、構造的にも弱い立場だからお金が入らないと……」

 

主「IPビジネスで重要なのは『権利を得る』ということなんだ。

 権利者が絶対だからね。

 だから権利のないIPビジネスのクリエイターって、もう弱いも弱いのよ……

 本当に戦う武器が知名度と腕とツテだけになるから。

 その代わり、責任もないから契約したお金は作品が大外れしても、納品した以上はきちんと貰えるよ。

 それで安くても薄利多売っていうのは映像クリエイター系でよく聞く話だったけれど、近年はクオリティが上がりすぎて、手間がかかって多売もできない。

 というわけで、さらに苦しくなるという構図です。

 はい、お手上げ。

 お話終了」

 

それで終了って……

 

明日はこの問題の解決策の提案をして、この話はおわるかな

 

 

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