こちらの記事は後編記事となります
前編はこちらです
monogatarukame-sub.hatenablog.jp
生成AIと著作権法
絵描きにとっては写真の登場以来の大革命
さて、前編では、これだけ著作権法に気をつけているよ、と言う話をしてからの本題です
感覚的には絵描きの気持ちはわかるよ
カエル「AIによって失われる仕事もたくさんあるって、戦々恐々だよね……
うちだってライター業は無くなる可能性があるけれど、上記の理由でAIの文章を著作権法違反で問うのはハードルが高いし、個人じゃ無理という結論に達したというね。
この間は士業とAIの討論があって、とても参考になったのでリンクを貼っておきます」
業界にもよるけれど、特に絵描きは反発が特に強い印象だ。
主「それもわかるけれど……多分絵にとっては写真の登場以来の大きな出来事だろう。
昔は絵以外では、風景などの描写ができなかった。だからこそ西洋画のように写実的な絵画表現が発達していった。だけれど写真が生まれて……最初こそ普及するまでは時間がかかったけれど、絵で描くよりも写実的なものが高速で生まれるようになって、絵画はスタイルそのものも変換していくこととなった」
それと同じことが、AIで起きているのではないかと
ただし、写真の時はそれが必ずしも悪い方にいったとは思えない
主「例えば……今の日本のオタク文化がわかりやすい。
アニメや漫画の絵のように……そりゃ中には写真のようなリアルな作品もあるけれど、同時にデフォルメされた絵の魅力だってあるわけだ。
実写映画のようにアニメーションを動かしても、それがアニメーションの快感につながるわけではない。
写真的なリアルでは表現できない面白さが絵画にはあるし、それを発見するきっかけとなる出来事だったのではないか」
Vtuberの儒烏風亭らでん(じゅうふうてい らでん)が『Vtuberは新しい自画像だ』って考え方を紹介していたけれど、それはまさしくそうだと思う
主「誰もがスマホでパシャパシャ自撮りする時代になって自画像が存在し得なくなった代わりに、アバターを獲得することで新しい自画像が生まれた。
つまり、写真という新しい技術が生まれたことで、絵画はより抽象的になり、日本では漫画やアニメの発展にも繋がり、ひいてはVtuberとかアバターとかが生まれるきっかけになったのではないか、という意見だ」
技術の進歩が必ずしもそれまでの産業や文化を破壊するわけではない、ということだね
インターネットの登場と同じように使い方次第でいくらでも発展するのではないか
著作権法違反の事例が非常に多いオタク界隈
そもそも著作権を言い始めると
AIと著作権法を語る以前の問題があるということだけれど……
そもそもさ、著作権法のことを言い出したら、苦しむのは今の絵描きだよ
カエル「あー……このポストのことね」
AIの使用者にクソなやつがいるってのは完全同意なんですよね
— 井中カエル@物語るカメ/映画・アニメ系VTuber(初書籍発売中!) (@monogatarukame) 2024年3月6日
ただ言いづらいのは著作権法を取り出したらX上の既存作品のFAも既存漫画のコマを貼るのもNG、さらに言えばセリフを改ざんして貼るのは明確に著作人格権の違反なんですよね…… https://t.co/LBqRAcsMGP
カエル「Xでは既存作品のファンアートが山ほどあって、しかも既存漫画のコマを用いて社会に対してツッコミをするようなポストもあるよね。
あとは動画の無断転載、さらには漫画の吹き出しの中身を勝手に変える、MAD動画も含めてやりたい放題だよね……」
主「真面目にやっている人だって、たくさんいるのはわかっている。
無収益でやっているのも、微妙な部分はあるけれど慣例としてOKになるだろう。
でもさ、生成AIに反対している人たちが、じゃあ既存のキャラクターを描いていないか? というと、そんなことはないわけで。許可をとっている人が果たして1割もいるのか?
しかもそれでフォロワー数を稼ぐだけならばともかく、pixivなどに誘導して課金させたり、場合によっては既存キャラのR18同人誌を描いて稼いでいる人もいるわけだよね」
それ、見逃されているだけで超絶明確に著作権法違反だからね?
主「この間の『セクシー田中さん』騒動の時に、著作人格権を守れ! と言っている人がいたけれど、その人のポスト一覧を見たら、既存漫画のコマの吹き出しを改変していてネタにしていた。
よくあるのが『美味しんぼ』のラーメン三銃士とか『こち亀』のライダーのおもちゃネタとか、勝手に改竄しているケースも多いけれど、あれは明確に著作人格権の侵害だ。
もちろん公式と非公式の違いはあるけれど、やっていることは……むしろ無断と考えたら、コマの改ざんの方が悪どいんじゃないかってなるよ」
勘違いされてほしくないのは……されてほしくないって言い方も微妙だけれど、規制しろ! というわけではありません
むしろ、カオスだからこそ生まれるものだってたくさんあるよ
主「そういう文化がある中で、絵描きに限らずクリエイターが増えていくということはある、一つの修行の場にもなっている。そこから生まれた作品だってある。
ファンアートがたくさん生まれて、ダンス動画がバズって、音源が勝手に使われて、MAD文化で感動して……それらは著作権的には微妙だけれど、同時にだからこそ広くマスに波及していく。
今の時代って、著作権侵害を怒る時代ではなくて……もちろん限度はあるし、そこを判断するのは著作権者だけれど、黙認していくことによって、より大きなパズを生み出す段階になってきている。そのあたりの舵取りが非常に難しい段階なわけだ」
現在懸念されていることはAIでなくても違法が多い
それでいうと、既存の著作権法でも対応が可能って考え方なの?
というかさ、AIでなくても違法なことを混同している人がいる印象かな
カエル「つまり、さっき挙げた無断のイラストの使用などだね……」
主「既存キャラクターの商品を無断で販売している、それは明確に著作権法違反。訴えられたらアウトなのは確定している。
またウマ娘などのようにR18が禁止されている作品なのに、R18が存在しているのもAIだからというよりも、手書きだろうがダメ。
声は……実は難しいところで、肖像権で言及された裁判はないみたいなんだよね。ただし既存の作品の音声を用いて動画を作る、発表するのも著作権の違反。
AIだからダメなのではなくて、AIじゃないと個人の問題として非難されたり見過ごされていたものが『AIだから』と声を上げ始めた印象だ」
今、議論になっているのはインプット側の方で、確か文化庁は『非営利だったら問題なし』という認識なんだよね
ここが今、世界で裁判を行っているところだな
主「34ページにある『入力の段階では著作物の表現を享受しない利用であると考えられ、著作権者への不利益は通常生じないと考えられること』というのが、現在の文化庁の判断。
ここで意見が割れているね。
考え方によるけれど、学習そのものは違法ではないというものもある。
結局は営利目的で出力するのか、という問題になる。
例えるならばウマ娘そのものを教えるのは問題なしで、ウマ娘グッズを作って商売しようとしたら問題になる、という認識かな。
ただ一方で、おそらく問題になるののは『氏名表示権』とかあるいは『公衆送信権等』『翻訳権、翻案権等』『二次的著作物の利用に関する原著作者の権利』あたりになりそうな印象かな」
ここは世界の裁判の結果で変化していくのではないだろうか」
AIの登場で淘汰されるもの、されないもの
AIの登場で仕事が奪われるという意見も多いけれど、淘汰される絵の表現と、されない表現って一体何?
自分は作品は基本的に大丈夫だと考えている
カエル「作品というと、漫画とか、あるいはイラスト、デザインなどのような分野だね」
主「もちろんAIで作る人もいるだろうけれど、結局は人間が描くということに魅力を感じている人も多いだろう。さらに大企業はちゃんとした著作権か否かなどの心配があるため、人に対して報酬を払う流れは続いていく。
TAAF(東京国際アニメーション映画祭)のシンポジウムで、5年後のアニメ業界を話す中にAIの話も出てきた。技術者サイドとしては使うという意見もある中で、やはり著作権がクリアできないので使用を慎重に、という意見もあった」
いつもいうけれど、チェスや将棋や囲碁でAI、コンピューターが人間より強くなっても、競技そのものが終わったわけではない
主「なぜなら人は、例えば藤井聡太という人間のドラマが見たいからだ。
スポーツも同じで、野球では人間が到底投げられない魔球を投げられるマシーンは登場しているけれど、それがあるからといって野球の魅力は無くならない。
最後は人間の勝負となる」
AIで淘汰されるもの
じゃあ、AIで淘汰されるものは?
例えば士業などのように、結果だけを求めている仕事は危ないと言われている
カエル「士業というと弁護士とか税理士とかのことだよね?」
主「さすがに弁護士とかレベルが危ないかはわからないけれど、税理士は特に危ないんじゃないかな。税金の計算とかをAIが全部できるようになったら、仕事がなくなる……とはいっても、最後に確認・承認する人が重要だから、むしろそういう仕事の人の助けになると思うけれどね。
あとは……誰でもいいからやってほしい仕事。エクセルなどに入力するデータ管理とか、そういう仕事。だからいわゆる企業の総務とか経理の人とかは、かなり便利になるんじゃない?
でもデータ管理の規制があるから難しいのか?」
表現の分野でいうとどういうの?
低賃金、あるいは無料でなんとなく入れている絵画表現だな
カエル「……なんとなく入れている絵画表現というと?」
主「絵って作品ばかりが注目されるけれど『なんでもいいから入れて』っていう場面も多いんだよね。
わかりやすいのはチラシ広告で、なんとなくイラストや絵を入れているものも多い。あれは見た目を良くするために入れるものだよね。
うちのヘッダーのイラストもAIが描いたけれど、ブログのヘッダーこそ……まあ、そこは拘れよって話かもしれないけれど『お金を使うのはなんだけれど、でも何か欲しいな』って感じじゃない?
でもカエルとか亀爺の自画像なんかは、やっぱり無料や自分が描いたのではな…と思うからお金を出してプロにお願いした。
これが作品とそうじゃない絵画表現の扱いの違いかな」
それでいうと、最も影響を受けるのはイラスト屋かな
主「あれはあれでもう1つのジャンルとして確立しているけれど、もっと知名度が低いフリー素材の絵はかなり厳しくなるかもしれない。あとは配信の背景とか、YouTubeなどのサムネイルとか。
お金を出すまでもないけれど、フリー素材でなんとかするもの、そういうのは、さっさと生成AIに変わっていく。
ただ、先にも言ったように現行では著作権の問題は完全にクリアできないから、個人ではともかく大企業は慎重な姿勢を崩さないだろう。
だから結局は遊びで使う個人と、そこまで大きくない企業が、フリー素材代わりとして使用するのがメインになってくると予想するかな」
AIがあるからこそ生まれるであろう新しい世界
AIの登場で変わるものってあるの?
そりゃ、たくさんあるよ
カエル「そこまでして推進する必要があるのか? って意見も多そうだけれど……」
主「う〜ん……じゃあ、こういう例え話をしよう。
江戸時代などの昔は移動手段がなかったから、何十キロ、何百キロを歩ける人だけしか旅行ができず、必然的に健康である程度若い年齢の人しか行けなかった。
だけれど車が生まれ、電車、新幹線ができることで、人の交通の便利さは格段に上がり、今ではご老人であろうとも、3歳の子どもであろうとも遠出ができるようになった」
それが産業の発展による時代と文化の変化なんだね
もちろん、そこで淘汰されたものもたくさんあるよ
主「健康な飛脚は仕事を失ったろうし、馬や籠を使った商売はかなり衰退した。
人力車は明治に生まれたらしいけれど、今は一部の観光地にしかない。それは健康な足に自信のある男子にとっては、車などの登場は憎かったろう。
だけれど、そうすることによって社会は変化する。
絵も同じでさ……そりゃ、何年も苦労して絵を描いて修練した人は憎いよ。
でも写真が生まれたことで絵が描けなくても風景が伝わるようになったように、絵が描けなくても誰でも絵画表現ができる時代が来る。
あとはアイディア勝負になってくるんだよね」
車の登場でマラソン選手に意味がなくなったのか? という話に似ているかもしれない
主「『AIの登場で絵師がいらなくなる』という人は、自分は短絡的な発想だと感じている。
だってさ、マラソンってなんの意味があるの? って気がするじゃん。42.195キロなんて、車やバイクを使えば誰だって1時間を切るよ。信号も速度制限もなければ、もっと速くなる。
だけれどマラソン競技は無くならないし、記録更新で多くの人が湧き立つ。なんなら駅伝みたいな行事だって存続している。
文化は、最後に残るのは人間力の勝負だ。
だから作品を生み出すことも重要だけれど、セルフブランディング、自分の価値を高めることが最も重要になる。
AIではない、人間だからこその魅力が、人間の最大の強みになるからね」
だから、冒頭に述べたように、うちはブログなどの記事執筆をAIにはさせない方針なんだ
最後は人間が書くものが勝負になる、という未来の展望だね